Lipiodol-TACEは広く施行されている手技ですが、致命的な欠点を有しております。それは、太い血管から細い腫瘍栄養血管が直に分岐している場合はリピオドールが栄養血管内に流入しずらいということです。これはリピオドールの油滴が高い表面張力を有しているため、油滴が変型して細い血管に侵入しないからです。
このような解剖構造はGlisson近傍の結節に認められ、しばしば多数の細い血管が直に分岐していることがあります。
多数結節症例の場合は、いくつかの結節がGlissonと接している可能性が高く、しかも個別に超選択的TACEを施行することは非現実的となります。よってLip-TACEですべての結節を制御することはとても困難となります。
よって表面張力の影響がない抗がん剤水溶液を効率的にTACE手技に組み込むことは、理にかなったことです。
まず、希釈した破砕ジェルパート(別項参照)とCDDP溶液を準備します。CDDP溶液は50mLのシリンジに充填します。IAコール50mgを温生食50mLに溶解します。
抗がん剤を3-10 mLほど急速注入し、続いて希釈ジェルを0.5-1 mL注入します。
上記の交互注入を3-7回繰り返し、区域枝ー亜区域枝レベルまで造影剤が漂うまで継続します。もちろん胆嚢動脈や副胃動脈に流入しないよう、肝臓全体の治療の場合は実際には3-5本ほど血管を選択し、交互注入を繰り返しますのでかなり手間がかかった治療といえます。巨大な結節でない限り、全肝のRAIB-TACEはジェルパート2Aで完了できます。
慣れが必要なポイントは、50-100mLのCDDP溶液をうまく配分することです。重要なことは、ジェルパートをしっかり注入することで、血流が止まりにくいときは、CDDP1mLと希釈ジェルパート1mLを交互に注入することもあります。Vascular lakeに対する血管処理は巨大HCCの項目で詳述しますので参考にしてください。
補液は後述のrapid hydration techniqueを用います。
eGFRが30-40以下の場合はCDDPの代わりにEpirubicinを用います。
CDDPを使用しますので腎保護のための補液は非常に重要です。前日からの補液は行っておらず、TACE当日のみの補液です。吐き気止めはアロキシが推奨されます。TACEそのものには60-120分かかりますので、その間に1000mLの補液を行います。血管造影室に入室してから退室するまでの典型的な時間経過は次のような感じです。
多発結節を良好に治療できるということは、血管を超選択的に選ばなくても結節の治療が可能であるということを示唆しております。また、広範囲に塞栓を施行しても副作用が少ないということも長所として挙げられます。私自身は塞栓後の患者さんの状態を観察する限り、良好な結節制御よりも、塞栓後の患者さんの表情が柔和であることがRAIB-TACEの最大の長所と考えております。よって、RAIB-TACEはほとんどのTACE治療に置き換わる可能性があると考えております。
しかし、リピオドールの使用頻度はゼロではなく、Glissonに接していない小結節で技術的にRFAが困難な結節に対してはミリプラチンを用いた3 step B-TACEを行っております。
RAIB-TACE技術の応用として、カテーテルを腫瘍栄養血管まで挿入できないときにも適応できます。やや中枢側からTACEを施行しても副作用が少ないので、内膜損傷のリスクを冒してカテーテルを挿入することも必要なくなると思います。